Ki-No-Otonai

vol.15

白露

Hakuro

2024.9.7 ― 9.21

秋を彩る前の静けさ

次第に秋めいてくるこの頃。
夜の間に大気中の水蒸気が冷えて
草花に朝露がつき始めます。
それが白く輝いて見えるから
「白露」というそうです。
野に空に、真夏には見られなかった光景が
現れるようになりました。

何色にも染まる白か、
もの寂しい白か。

平安時代の古今和歌集には、歌人・藤原敏行が詠んだこんな歌が収められています。
「白露の色はひとつをいかにして 秋の木の葉を千々にそむらむ」
白露は一色なのに、いかにして秋の木の葉をさまざまな色に染めるのだろう、と。
秋は白に始まり、やがて黄に紅に色とりどりに染まっていく。
言われてみれば不思議なものですね。
そう詠んだ気持ちは、移ろう季節を肌で敏感に感じ取っていたからこそ湧き起こるものなのでしょう。

秋の季語に「色なき風」があります。
これは中国の陰陽五行説で秋を「白」と表したものを日本人は「色なき」とし、はなやかな情感をもたない風を表したものです。
先ほどの藤原敏行の歌のように、これから染まっていく秋への期待として捉えた白もあれば、そんな寂寥(せきりょう)の白もある。
自然を想う人の心はとりどり。
秋の風に吹かれる人の数だけ、さまざまな白の情感が生まれるのでしょう。

季節はめぐり、
人は不老長寿を願う。

白露の初候、九月九日は五節句のひとつ「重陽の節句」です。
その昔、菊の花からしたたる露が川に落ち、その水を飲んだ者が長寿になったという菊水伝説が中国にあります。
それにあやかり、平安時代の宮中では「菊の宴」が催され、厄除けや不老長寿を願い菊の花を浸した菊酒を飲んだそうです。
江戸時代には「菊の節句」として庶民にも親しまれ、今も各地にその伝統は息づいています。

楊洲周延『千代田の大奥 観菊』,福田初次郎,明治28年(一部を表示)
出典:国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1302673/1/3

その放射状に整った形が太陽の光に似ていることから、菊は「日華」とも呼ばれ、長寿の意味合いからも瑞祥的な模様として、平安時代から貴重なものに使われていました。
江戸時代になると観賞用としての菊の品種改良が進み、それに伴い野菊や大輪の菊などさまざまな模様が生み出されました。

千年以上、
日本で咲き続ける模様。

時代とともに多様なかたちが生まれた菊模様。
印傳屋にも日本の伝統模様としてさまざまな菊の模様が受け継がれています。
菊の印伝を手にするとき、そこにはこの国で菊が親しまれてきた千年以上の時が流れていることを、
秋の風に吹かれながら感じてみてください。

「菊」模様の印伝

F小銭入05[黒地/赤漆/菱菊]
5,500円(税込)
340親子がま口[黒地/赤漆/線菊(小)]
9,130円(税込)
115がま札[黒地/赤漆/菱菊]
18,700円(税込)
束入I[黒地/白漆/菊]
20,350円(税込)
札入K[黒地/赤漆/線菊(小) ]
19,800円(税込)
束入Z[黒地/赤漆/線菊(小)]
28,050円(税込)
名刺入[赤地/白漆/菱菊]
7,700円(税込)
合切袋(大)マチ付[黒地/黒漆/菱菊]
24,200円(税込)

「菊」模様の印伝は、形や色の組み合わせがさまざま。上記以外の商品については、印傳屋直営店へお問い合わせください。

季の訪い
季の訪い

頰を撫でるそよ風に、
ふと見た野辺の草花に、季節を知る。
あめつちの間で、ひとは千年以上も前から
季の趣を細やかにとらえ、
風物や自然の恵みを愛おしんできました。
一日一日を過ごす時の流れは、
むかしほど緩やかではない
かもしれませんが、
その感性は今も誰の心にもあるものです。

季節の移ろいと、そこに寄り添い
生きてきた
日本の暮らしと文化をなぞり、
日本人のひとつの感性として
生み出してきた印伝とともに
二十四の季をみなさまと
めぐってまいりたいと思います。