Ki-No-Otonai

vol.9

芒種

Bōshu

2025.6.5 ― 6.20

心の雲間に
彩りを

爽やかな空の青が、
次第に灰色になる日が増えてきました。
梅雨入りを迎えると、
心までどんよりとしてしまいます。
それでも、季節がちゃんと進んでいるのだと
思って、
「芒種」の雨の風情を
愉しんでみたいものです。

水田は若い緑に、
梅の実は黄に。

芒種の「芒」は「のぎ」と読み、
イネ科植物の穂先にある細い毛のような部分のことで、
芒種は稲などの穀物の種をまく時季です。
古くから田植えの目安とされ、農家さんが忙しくなる頃。
各地で豊作を田の神様に祈る祭りも開催されます。

芒種も末の候、七十二候では「梅子黄(うめのみきばむ)」といい、
雨の恵みを受け青葉が茂るなか、梅の実が熟し黄色みを帯びてきます。
「梅雨」という言葉も、梅の実が熟す頃の雨という意味。
雨はただ心を暗くするのではなく、
自然の生命に潤いを与えているのだと
梅の彩りを見てあらためて思いました。

心にしっとりと映える
紫陽花の色。

梅雨時の日々を彩ってくれるのは紫陽花。
場所によって青、紫、ピンク、白と
さまざまな色合いと濃淡で愉しませてくれます。
晴れ間でももちろん綺麗なのですが、
雨露にしっとりと濡れた時こそ、その美しさが映えるもの。
「紫陽花」という字は平安時代の歌人で学者の
源順(みなもとのしたごう)が間違えてあてた漢名だそうです。
それでも、しとしとと降る灰色の暗い雨雲の下では、
私たちの心をぽっと照らしてくれる陽のような存在ですから、
むしろ相応しく、源順の感性に時をこえて賛同したいものです。

喜斎立祥『東都浅草花やしき紫陽花』(一部を表示)
出典:国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1308755

紫陽花は万葉集では二首しか詠まれておらず、
平安時代を代表する『源氏物語』『枕草子』には
登場しないのだそうです。
時とともに花の色が変わることが心の変節と捉えられ
武士には好まれなかったといい、中世ではあまり目立たない花でした。
それがかえって珍しいとされたのか、
江戸時代後期にシーボルトなどによって欧州に送られ
品種改良が盛んに行われます。
それらが日本に逆輸入され、セイヨウアジサイとして
親しまれるようになりました。

梅雨時に彩りを添える
紫陽花を模様に。

文芸の歴史の中ではあまり表には立たずとも、
紫陽花は梅雨時を彩る花として庶民に親しまれてきました。
暗い雨雲に囲まれるなかで輝くちいさくも淡い希望。
そんな心の雲間に彩りを添えてくれる紫陽花を
日本の残し伝えたい風月として、印傳屋は印伝の模様に取り入れています。

「紫陽花」模様の印伝

F小銭入02[赤地/白漆 ]
2,530円(税込)
F小銭入11[紺地/白漆]
7,810円(税込)
札入K[紺地/白漆 ]
19,800円(税込)
札入E[紫地/ピンク漆 ]
18,150円(税込)
束入Q[紫地/ピンク漆]
24,200円(税込)
パス入F[紺地/白漆]
4,400円(税込)

「紫陽花」模様の印伝は、形や色の組み合わせがさまざま。オンラインショップで取り扱いのない商品については、印傳屋直営店へお問い合わせください。

季の訪い
季の訪い

頰を撫でるそよ風に、
ふと見た野辺の草花に、季節を知る。
あめつちの間で、ひとは千年以上も前から
季の趣を細やかにとらえ、
風物や自然の恵みを愛おしんできました。
一日一日を過ごす時の流れは、
むかしほど緩やかではない
かもしれませんが、
その感性は今も誰の心にもあるものです。

季節の移ろいと、そこに寄り添い
生きてきた
日本の暮らしと文化をなぞり、
日本人のひとつの感性として
生み出してきた印伝とともに
二十四の季をみなさまと
めぐってまいりたいと思います。